【挨拶】
香川県金融経済懇談会における挨拶
日本銀行副総裁 山口 廣秀
2012年2月2日
目次
1.はじめに
日本銀行の山口でございます。本日は香川県の行政および金融・経済界を代表する皆様にお集まりいただき、懇談の機会を賜りまして、誠にありがとうございます。偶然ではありますが、本日は日本銀行高松支店の開設70周年という節目の日にあたります。これだけの長い期間、当地でしっかりと業務を続けてくることができたのは、皆様のご理解とご協力の賜物であり、この場をお借りして、改めて厚くお礼申しあげます。
香川県は、私自身にとって思い出深い土地です。私は1996年5月から約2年間、支店長として高松支店に勤務いたしました。その間、地元の企業経営者の方々のもとへ足繁く訪問させていただき、当地の景気や金融の実情を詳しく教えていただきました。その時に目の当たりにした皆様の並々ならぬ経営努力は、今でもはっきりと私の記憶に残っています。もちろん、当地の讃岐うどんに何度も舌鼓を打ったことも、忘れられません。
さて、本日は、当面の世界経済にとって最大の懸念材料である欧州債務問題に焦点を当てながら、日本経済の展望や中長期的な課題、そのもとでの日本銀行の政策運営の考え方などについて、お話をしたいと思います。
2.海外経済の動向と欧州債務問題の現状
海外経済はこのところ減速傾向ながら先行きは緩やかに回復の見通し
まず、海外経済の動向から話を始めます。2008年のリーマン・ショック以降、世界経済は、新興国に牽引される形で回復を続けてきましたが、昨年半ば頃から成長ペースは減速してきています。
地域別にみると、米国経済は緩やかな回復を続けています。最近では、消費や生産などに明るい動きがみられ、市場の見方も幾分楽観的となりつつあります。もっとも、住宅市場の低迷が長引き、失業率が8%を超える高い水準で推移するなど、持続的成長の基盤はなお脆弱です。このため、景気回復のペースは、当面緩やかなものにとどまると考えています。
欧州経済は、ギリシャなどの債務問題を背景に、全体として停滞色を強めてきており、引き続き先行きの世界経済にとって大きな懸念材料となっています。この問題については、後ほど詳しくお話しします。
新興国・資源国経済は、全体として高めの成長率を維持しています。しかしながら、最近は成長ペースが鈍化してきており、しかも成長の減速やインフレ率低下の度合いに、国ごとのばらつきが見られるようになっています。例えば、インドやブラジルでは、経済の減速が目立ってきているにもかかわらず、インフレ率はなお高止まっています。一方、中国では、成長の減速とインフレ圧力の低下がともに緩やかに進行しており、なお不確実性はありますが、うまく軟着陸に向かう兆しが出てきています。
なお、先月下旬に公表されたIMF(国際通貨基金)の最新の世界経済見通しによれば、2012年の世界経済の成長率は+3.3%との予想が示されています。昨年9月時点の見通し+4.0%に比べれば、欧州債務問題を主因に下方修正されていますが、新興国・資源国を中心に世界経済が次第に回復していくという見方は、大筋において維持されています。
昨年末にかけて深刻さを増した欧州債務問題
次に、焦点となっている欧州債務問題についてお話しします。この問題の発端はギリシャの財政問題でした。2009年10月、ギリシャの財政赤字について、それまでの統計が実態を表しておらず、本当の赤字ははるかに大きかったことが明らかになりました。このため、ギリシャの国債がきちんと償還されるのかどうかについて疑念が拡がり、ギリシャ国債の価格は大幅に下落しました。言い換えれば国債の利回りは大幅に上昇し、最近では30%以上の水準で推移しています。これでは自力での資金調達はできませんので、ギリシャは他の欧州諸国やIMFなどによる資金繰り支援を受けながら、様々な財政再建策を講じています。しかし、そのことがまた経済の下押し要因となり、財政再建自体を難しくするという悪循環に陥っています。そこ� �、ギリシャでは、重い債務負担そのものを減らすため、民間投資家による債権の一部放棄を含めて、今後の債務の取り扱いに関する議論が進められています。
ギリシャの問題は、財政状況にやはり不安を抱えていたポルトガルやアイルランドに飛び火し、これらの国もIMF等からの資金繰り支援を受けることになりました。さらに、ユーロ圏でGDP第3位のイタリア、第4位のスペイン、といった規模の大きな国の財政状況に対しても、市場における不安が高まりました。とくにイタリアは、昨年末近くには一時国債利回りが7%を上回るなど、厳しい状況に陥りました。その後、イタリア、スペインとも、それぞれ新政権のもとで財政再建策が打ち出されたこともあって、最近は国債利回りが幾分低下しています。しかし、そうした財政再建策が確実に実行されるかどうかはまだ不透明ですし、この春にかけては過去に発行した国債が大量に満期を迎え、その借り換えが順調に行われるかどうかも注目� ��れています。また、ポルトガルについては、国債の格付けが大きく引き下げられたことなどから、財政を巡る懸念がこのところむしろ強まっており、国債利回りは15%を超える高い水準で推移しています。
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